最近、ニュースでも頻繁に見聞きするのが、高齢者の方の運転による交通事故です。
つい最近の2018年5月28日も90歳の女性が運転する乗用車が神奈川県茅ケ崎市元町の交差点で、歩行者4人を次々とはね、そのうち女性が一人死亡してしまうという痛ましい事件が起きました。
一方、高齢運転者対策の推進を図るための規定の整備等を内容とする道路交通法の一部を改正する法律が、2015年(平成27年)6月に公布され、2017年(平成29年)3月12日に施行。
これによって75歳以上の高齢者の運転に関する対応内容が大幅に変更になりました。
年々、増加する高齢運転者の安全対策のために改正されたこの法律は一体どのような内容になっているのか?
また、日本だけでなく、世界的に高齢化社会が進む中で、海外ではどのような対策が取られ、この問題に対応していっているのか?
わかりやすく掘り下げてみようと思いました。
75歳以上の運転者が免許更新時や特定の交通違反時に受ける「認知機能検査」とは?
警視庁の調査によると、平成18年から平成28年にかかけて、交通事故による死亡事故は年々減少していますが、その死亡事故のうち、75歳以上の運転者による事故の割合が年々増加していっているのです。
そのため、私たちが、ニュースで高齢者の運転による事故を耳にする回数が増えているのは当然の事なんですね。
出典:警察庁資料による
そもそも、高齢者ドライバーの話をする中で、高齢者とは何歳からを意味するのかというと、警視庁によると、高齢運転者は70歳以上を意味します。
下記の図は、平成29年3月12日に施行された運転免許更新手続きのフローです。
つまり、更新期間が満了する日における年齢が70歳以上で75歳未満の方は、下の図の75歳未満の方に該当し、更新期間が満了する日における年齢が75歳以上の方は、下の図の75歳以上の方に該当します。
また、75歳以上の運転免許を持っている方が「認知機能が低下した場合に行われやすい一定の違反行為(18基準行為)」をした場合、臨時の認知機能検査を受けることとなります。
18基準行為とは以下の内容です。
・信号無視
・通行禁止違反
・通行区分違反
・横断等禁止違反
・進路変更禁止違反
・交差点右左折方法違反
・しゃ断踏切立入り等
・優先道路通行車妨害等
・指定通行区分違反
・環状交差点左折等方法違反
・交差点優先車妨害
・横断歩道等における横断歩行者等妨害等
・環状交差点通行車妨害等
・横断歩道のない交差点における横断歩行者等妨害等
・徐行場所違反
・指定場所一時不停止等
・合図不履行
・安全運転義務違反
この場合の臨時の認知機能検査のフローは以下の通りです。
これで、大まかな概要は分かったと思いますが、この認知機能検査というものはどういうものなのでしょう?
認知機能検査は何をやるの?
認知機能検査は、説明から検査までの約30分の検査です。
大きく3つの内容に分かれています。
1.時間の見当識
検査の当日の時間に関する認識を確認します。
2.短期記憶に問題がないかを調べる検査
1)絵を覚える
下記のような絵を4パターン見せられ、説明を聞きながら、覚えます。
2)介入問題:数字がたくさん書かれた表を見て、試験管が言う数字を斜線で消していきます。絵を覚えた後の介入問題なので点数はつけられません。
3)ヒント無しで覚えた絵の内容(動物やモノの名前)を回答用紙に書く
4)ヒントありで覚えた絵の内容(動物やモノの名前)を解答用紙に書く
3.時計描写
空間認知能力や、数の概念、構成能力に問題がないかを調べる検査を行います。
名前が認知機能検査なのですから、当然ですが、まさしく、認知症の度合いを測るテストでした。
認知機能が衰えるということは、つまり脳の老化ですから、判断能力が低くなり事故を起こしてしまう可能性が高くなるということは頷けます。
が、高齢者の問題としては、単に脳の衰えだけでなく、目と下半身の老化という身体の衰えも見逃せるはずはないのですが、これに関しては、講習という形のみで対応されているようです。
運転する際には片目で90度の視野をもっていることが望ましいとされていますが、高齢者の場合には60度に満たない場合も多々あるようです。
また、下半身の衰えから、自分で、昔は出来ていたアクセルの踏み込みなどの調節が、思い通りに行かない場合もあるはずです。
このように見ていくと、改正道路法で開始された検査だけではなく、高齢者ドライバー事故を未然に防いでいくには、身体的な能力を測ったり、維持強化していくような取組みも、重要なのだろうと感じました。
海外における高齢者ドライバー事情
日本の平均寿命は高い高いと言われていますが、それでは、世界の平均寿命はどうなっているのだろうと調べてみました。
やはり日本の平均寿命は高いですね!
でもそれ以上に驚いたのは、50位のオマーンですら、77.029歳ということです。高齢者問題は日本に限らず、世界中の課題になっているのだろうと、改めて実感しました。
13位のカナダの事情を調べてみました。
13位といっても、82.3歳の平均寿命ですから、日本の83.985歳と2歳弱の違いです。
Global News.ca で見つけた記事は、なんと「大多数のカナダ人が80歳以上になっても運転免許を維持したい」というものでした。
保険会社が3,581人を対象に2017年3月に実施した調査で、「55%が80歳を過ぎても、免許を維持したい」、「約29%が80-84歳の間に免許を諦める」、「16%が90歳前に運転を止める」、「10%が90歳以上になっても運転を続ける」というものでした。
(※複数回答、条件付き回答のアンケートのため、上記数値は合計で100%にはなりません)
このように、積極的に運転免許を維持したいという回答したカナダ人ドライバーですが、やはり、自身の年齢からくる課題については深く認識しているようです。
特別な問題が生じたときには、この運転免許維持の権利を放棄するという答えも多かったのです。
その理由としては、「94%が医療専門家からのアドバイスがあった場合」、「27%が家族の心配」「14%が衝突事故など」「4%が違反切符」の場合には、早めに運転を止めるという回答でした。
日本の高齢者ドライバーの方々の意見にもありますが、カナダも同様で、高齢者ドライバーが免許をあきらめ、運転を止めるというのは、自分で思い通りに行動ができなくなり自立が出来なくなることを意味しているようです。
元気に年をとっているなら、自立して、家族に頼りすぎることなく行動をしたいという願いを持つ高齢者の方が多いのは、日本に限らず、カナダでも同じことなのでしょう。
カナダは、アメリカと同様、それぞれの法律が州にて定められているため、州によって免許更新のプロセスも異なるのですが、首都のあるオンタリオ州(州都はカナダ最大の都市トロント、連邦政府の首都オタワも属します)では、2018年になって、今まで筆記テストのみだった80歳以上の高齢者ドライバーの免許更新プロセスを一新しました。
この決定には、以下の三つの理由が挙げられています。(オンタリオ州はカナダで最も人口が多く2014年1月1日で1360万人です。)
1)おおよそ、14,000人の高齢者が視野にかなり限界のある状態で運転免許を保持している
2)約40,000人の高齢者が、記憶力、認知力、問題解決能力に難点を抱えた上で免許を保持している
3)約20,000人の高齢者ドライバーは認知症を抱えたうえで免許を保持している
このような現状から、高齢者ドライバーによる交通事故を減らしていくために新しいプロセス実施に踏み切ったのです。
<以前のテスト>
・時計を描き、その時計に時間を記入する。
・ランダムに並んだ文字の中から、特定の文字を消していく
↑ 日本の認知機能検査と似ていて、なおかつもっと簡略ですね。
<新規プロセス>
・視覚テスト
・45分間のグループセッションで、新しい道路法規や、高齢者ドライバーが注意すべき点などを学ぶ
・10分間の適正検査
・自身のドライビングレコードを確認する
この4つのプロセスの中で問題があった場合、実車運転テストを受けることになります。
大きくは、日本の検査を違わないのですが、やはり注目すべきは、「ドライビングレコードの検証」と「実車テスト(講習ではなく)」というところでしょう。
日本にもドライビングレコードの装置を今では簡単に取り付けられることが出来ました。
老若男女問わず、ドライビングレコードを装着することで、もしものことがあった時の原因究明にもなりますが、このような活用方法ががあるのだと改めて実感しました。
上記のアンケート調査にもありましたが、医療専門家のアドバイスも、高齢者ドライバーの運転自粛に大きな影響を持っていることがわかりました。
最近の日本における高齢者ドライバーが事故を起こした場合にも、家族が説得してもなかなか聞き入れてもらえなかったということをよく耳にします。
どんなに家族が思っていても、やはり第三者的な意見(医療専門家のアドバイス)、そして紛れもない運転実績(ドライビングレコード)は、高齢運転者の事故を未然に防ぐための自粛対応に大きな意味を持つのではないかと感じました。
世界中に広まる高齢化の問題は、単に長寿大国日本だけの問題ではないようです。
悩める他国の取り組みも、より積極的に取り入れて、高齢者ドライバーによる事故を未然に防ぐ対策が、改善されていくことを心より願います。
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