日本時間2018年10月19日20日10:45に、JAXAが開発した水星磁気圏探査機MIMO(Mercury Magnetospheric Orbiter 愛称みお)が、欧州宇宙機関(ESA)の開発した水星表面探査機MPO(Mercury Planetary Orbite)と共に、水星に打ち上げられます。
JAXA史上最も長い15年間の探査の旅に出発するこの「みお」がどんな事を成し遂げようとしているのかに迫ってみます。
※使用する欧州側ロケットの打ち上げスケジュールの変更に伴い、打ち上げが1日延期されました。
目次 Contents
水星探査計画「べピ・コロンボ」
今回「みお」が参画する水星探査計画の正式名称はベピ・コロンボ(BepiColumbo)です。
ベピ・コロンボとは、水星探査の歴史に多くの業績を残したイタリア人の数学者、天文学者、技術者であるジュセッペ・・コロンボ氏(1920-1984)の愛称がベピだったため、この方の名前に由来しています。
水星とは、太陽系惑星の一つとして知られており、地球からの距離は1億5000万キロメートルで、太陽系の中では最も小さい惑星です。
水星は比較的地球の近くにある惑星です。
最大の惑星である木星は7億8000万km離れていて、最も遠い海王星は45億km離れています。
金星と太陽は共に地球からは同じくらいの距離1億5000万キロメートル晴れており、水星は最も太陽に近い惑星です。
実は、水星は、地球から比較的近い距離にありながら、これまで数少ない探査しか行われていない惑星です。
これは、水星探査がとても難度の高いものだからです。
水星が太陽に近い位置にあるため、水星に近づくと、太陽の重力によって探査機が加速化してしまいます。
また、水星そのもの重力が小さいので、単に接近するだけだと、周回軌道に乗れず通り越してしまうのです。
このような重力の問題を克服するための技術がスイングバイ(重力アシスト)といいます。
スイングバイとは天体の運動と重力」を利用して宇宙機の運動ベクトルを変更する技術でジュセッペ・ベピ・コロンボ氏が開発し、世界で初めて最も水星に接近したマリーナ10号(1974年から1975年)で初めてその技術が活用されました。
その後2011年3月18日にアメリカ航空宇宙局 (NASA) のメッセンジャーという水星探査機が水星の周回軌道に投入されて観測が行われました。
残念ながら、、2015年5月1日に水星表面に落下しまい、そのミッションは終了しましたが、実に打ち上げの2004年8月3日から 10年以上の旅を続けました。
今回、2018年10月19日20日(日本時間)に打ち上げられるベピ・コロンボは、7年間を経て水星に到着し、1年間の観測を経て、また7年の歳月をかけて地球に帰還する予定です。
メッセンジャーの時、地球、金星、水星と複数回の減速スイングバイを行いながら水星の周回軌道に接近しました。
結果、地球から水星まで最短距離では約1億5000万kmのところを、79億kmもの軌道を辿ることになりました。
ベピ・コロンボも、地球スイングバイ、2回の金星スイングバイ、6回の水星スイングバイを経て、7年後の2025年末に水星に到着する予定です。
1億5000万キロメートルと比較的近い場所に位置する水星ですが、このような時間と距離を遠回りしなくては、無事に到着できないほどの、太陽の大きな重力があるのでしょう。
欧州宇宙機関(ESA)とJAXAの国際協力ミッション
今回の水星探査計画ベピ・コロンボは欧州宇宙機関(ESA)とJAXAの国際協力ミッションであり、水星の磁場・磁気圏・内部・表層を初めて多角的・総合的に観測する、日欧初の大型共同プロジェクトです。
ESAが担当するのは、水星表面探査機(Mercury Planetary Orbiter: MPO)であり、日本のJAXAが担当するのは水星磁気圏探査機「みお」(Mercury Magnetospheric Orbiter: MMO)です。
この二つの探査機がアリアン5ロケットに搭載されて、2018年10月19日に水星に向かって打ち上げられます。
ESAによるMPOは水星の表面地形、鉱物・化学組成、重力場の精密計測を目的としています。
一方、JAXAの「みお」は水星の固有磁場、磁気圏、大気、大規模地形の観測を目的としています。
マリーナ10号が1975年に水星を観測した時、水星に磁場があり磁気圏を持つ事を発見しました。
これは誰もが予想していなかった事でした。
水星は、直径約4,880kmで、地球の約半分くらいしかない大きさで、このような小さい惑星の場合、惑星の内部は固まっていて、磁場を持たないと考えられていたのですが、その予想が覆ったのです。
太陽系の惑星の中で、木星型惑星とされる、木星、土星、天王星、海王星はいずれも磁場を持ち、それに伴うオーロラの観測もされていますが、地球型惑星である、地球、水星、火星、金星の中で磁場があるのは地球と水星だけです。
マリーナ10号の観測によって水星に磁場があることは分かったのですが、どうして磁場があるのかは解明されていません。
また、電子が数秒間という短い時間の中で非常に高いエネルギーに加速されたことも分かったのですが、それがどのように加速されたのかも分かっていません。
そういった原因を解明し、惑星形成、進化を知るために必要な、水星の表面の地形や鉱物組成を観測するためにベピ・コロンボが計画されました。
ベピ・コロンボの主な目的は水星の磁場と磁気圏、水星内部と表層の詳細に観測することです。
惑星の磁場には、惑星の内部が深く関係しているので、水星の磁場を詳細に調べることは、その発生メカニズム、そして水星の内部構造を解明するのに大いに役立つのです。
ですからJAXAの「みお」が担当する水星の固有磁場、磁気圏の観測は、非常に重要な役割と言えます。
日本では2000年頃に、現在の「みお」と似たような、水星の磁気圏を調べる探査機の計画が立てられましたが、打ち上げるには大きなロケットが必要であるなどの問題があり、途中で計画を中断したという経緯があります。
国際学会などで、日本が水星探査を検討している事を発表していましたが、ヨーロッパでも現在のベピ・コロンボのような2機型の探査機を検討しており、その中の1機を「みお」のような探査機でした。
日本が、すでに過去の磁気圏観測衛星「あけぼの」や「GEOTAIL(ジオテイル)」の成果によって、国際的にも信用を得ていたこともあり、ヨーロッパ側からの声がけで、この国際協力プロジェクトが実現しました。
18年に及んだ長期の計画ベピ・コロンボ
今回のベピ・コロンボ計画の始まりとして、水星探査計画は、欧州宇宙機関(ESA)の5番目の大型計画として認可されました。
2008年2月12日 文部科学省宇宙開発委員会で、2013年の打ち上げが承認されましたが、開発が難航し、何度も打ち上げスケジュールが変更されました。
ESAの水星探査計画が進行している最中に、NASAによるメッセンジャーの打ち上げが、2004年8月3日に行われました。
そして、2011年3月18日に水星の周回軌道にたどり着き、本格的な観測が行われ、2015年5月1日に水星表面に落下して、その任務を終了するという流れと並行して、ベピ・コロンボ計画のための開発は進行していきました。
2015年3月15日に宇宙航空開発機構にて、JAXAの水星磁気圏探査機MIMOのモジュールが公開され、そして遂に2017年7月6日に、打ち上げは2018年10月、水星到着は2025年12月の予定であることが発表されました。
この長期に及んだ計画は、何度も打ち上げの延期を余儀無くされてきましたが、今度こそは、実行に移されそうです。
地球から水星への距離は1億5000万キロメートルであるのにも関わらず、確実に到着するためには、多くの遠回りが必要で、メッセンジャーもそうであったように、7年の歳月をかけます。
また、水星が太陽に近い惑星のため、太陽の重力によって探査機が激しく加速化されるため、減速をするために大きなエネルギーが必要であったり、太陽に近いための激しい熱などの過酷な状況に耐えうる構造が必要であったりと、とにかく水星観測の難易度は高いのです。
正式認可から実際の打ち上げまで、18年間という長い歳月がかかったのも、その難易度の高さゆえでした。
が、とうとう、技術の進歩と、長年の開発研究の成果として打ち上げ実現となったのですから、ベピ・コロンボのこれからの働きには大きく期待できそうです。
2018年9月5日には、ESA担当の水星表面探査機(Mercury Planetary Orbiter: MPO)とJAXA担当の水星磁気圏探査機「みお」(Mercury Magnetospheric Orbiter: MMO)2機の探査機が打ち上げに向けた最終状態として結合されたという発表がありました。
本当にもうすぐに世紀の水星探査が始まります。
JAXA「みお」の名前の由来
JAXAの探査機といえば、あの有名な「はやぶさ」を始めとして、日本人にとっては馴染みの深い名前を持っています。
ベピ・コロンボの大事な役割を担うJAXAが開発した水星磁気圏探査機MIMO(Mercury Magnetospheric Orbiter)は、公募によって愛称が「みお」と決まりました。
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水星磁気圏探査機MMOの愛称が発表されました🛰なんと、娘が応募した”みお(MIO)”です😆 驚き過ぎてjaxaの発表を何度も見てしまいました👀 可愛らしい愛称ですが、この探査機はきっと逞しい子です💪打ち上げがますます楽しみになりました😊 #jaxa #esa #水星磁気圏探査機MMO #水星探査計画BepiColombo #BepiColombo
水星探査計画ベピ・コロンボが日欧初の大型共同プロジェクトであるため、「みお」の英語表記が「MIO」になるので、そもそもの探査機名称がMIMOなので、少し混同してしまいがちです。
JAXAは、この水星磁気圏探査機MIMOに愛称をつけるために、2018年2月20日~4月9日の期間、一般からの公募を募り、2018年6月8日に愛称は「みお」に決定したと発表しました。
応募総数は6,494件で、「みお」という名前の提案は19件あり、「みお」の提案者の方々には記念品が送られたそうです。
この「みお」という名前が選ばれた理由として、JAXAは次のように発表しています。
・「みお」は河川や海で船が航行する水路や航跡の意味をもつことから、これまでの探査機の研究開発の 道のりを示すとともに、これからの航海安全を祈る愛称であること。
・古くより船が航行するときの目印にする標識を澪標(みおつくし)と云い、和歌では「身を尽くし」の掛詞 になることから、努力と挑戦を続けるプロジェクトメンバーの思いを表していること。
・水星の磁気圏によって変化する太陽風のプラズマの流れのなかでMMOは探査する。この状況と船 が流れの中を進むイメージが合致すること。
・海外の方にも発音しやすいこと。
参照:JAXAプレスリリース水星磁気圏探査機MMOの愛称決定について
「みお」とは漢字では、澪、水脈、水尾と書き、水の緒の意味です。
大辞林によりますと、
①内湾や河口付近で、砂泥質・遠浅の海底に沖合まで刻まれた浅い谷。水の流れの筋。小舟の航路となる水路。
②船の通った後に残る泡や水の筋。軌跡。
となっています。
覚えやすく、可愛らしい名前でありながら、MIMOの役割から、この水星探査にかける多くの人々の尽力まで表現した名前でもあります。
古風な名前でもありますが、TBSアニメーション「けいおん!!K-ON!!」の登場キャラクターである秋山澪とも同じ名前でもあるので、少年少女世代にも親やすい名前となりそうです。
水星到着までの予定
2018年10月19日20日の打ち上げの後、ベピ・コロンボは地球で1回のフライバイ、金星で2回のフライバイ、水星で6回のフライバイを経て、水星の周期軌道に投入される予定です。
フライバイとは、天体の「固有運動」の後ろ側あるいは前側の近傍を通過することで、天体と探査機の間で、重力によって運動量と運動エネルギーがやりとりされ、それぞれの運動ベクトルが通過前と通過後で変化します。
このフライバイをしながら、スイングバイ(天体の運動と重力を利用して宇宙機の運動ベクトルを変更する技術)の技術を使い、水星の軌道に乗るための段階を経ていきます。
予定としては、2020年前半に、地球フライバイ、2020年後半と2021年前半に金星フライバイ、2021年後半、2022年前半、2023年前半の3回と2024年内に3回、合計6回の水星フライバイを経て、2025年12月に水星に到着する予定です。
水星到着後には、まず水星周回軌道までMPOとMIMOを運ぶ役割を持つ電気推進モジュールが分離されます。
次に、水星表面探査機MPOは、水星周回軌道に投入・軌道変更をさせられます。
そして水星磁気圏探査機MIMO(みお)が分離され、水星にたどり着くまでMIMOを太陽光から守るためのMIMOサンシールドが分離されます。
そこから、MPOとMIMO(みお)は、それぞれの探査の実施に入っていくのです。
水星到着までは、7年という月日がありますが、その間のフライバイの時にも、きっと何か情報を伝えてくれるのではないかと期待されます。
この巨大な宇宙プロジェクトであるベピ・コロンボの打ち上げは、2018年10月19日であり、あと数週間でこの世紀のイベントが開始されます。
打ち上げが行われるのは打ち上げ場があるフランス領ギアナ・クールーのギアナ宇宙センターです。
この世紀のプロジェクトの中で大きな役割を担う、JAXAが開発した「みお」が、どのように水星の謎を解明してくれるのか、きっとこれからの15年間、人々をワクワクさせてくれる事でしょう!
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