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幼児教育・保育無償化は本当に少子化の歯止めになるのか?消費税増税の有効な使い途となっているのか?一律無償化に潜む5つの問題点

幼児教育・保育無償化

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令和元年となったばかりの5月10日に、幼児教育・保育を無償化する改正子ども・子育て支援法が可決・成立されました。
この法改正に伴い、令和元年(2019年)10月から、日本での3歳から5歳までの子どもの幼稚園や認定保育所や認定こども園、企業主導型保育所の利用料が、親の収入額に関係なく、全てが無料となります。
急速に進む少子化に、少しでも歯止めをかけ、子供を産みやすい、育てやすい社会にしていくための具体的な政策が実現されるわけです。
では、本当にこの無償化は、子どもを産みやすく育てやすい社会になるために役立っていくのでしょうか?
同時期の2019年10月から実施される消費税増税の使い途として見合うものなのでしょうか?
一縷無償化という言葉の影に潜む大きな5つの問題点を検証してみました。

幼児教育・保育無償化とは?

現在日本では、生まれる子どもの数が少なくなり、平均寿命が伸びるという少子高齢化が進んでいます。
高齢化については、医療の発達に伴い、避けることはできない現象ですが、少子化が進んでいくと、将来社会で働く人の数、つまり将来の労働人口が減ることになるのですから、日本という国の先行きを考えると深刻な問題です。

実際に、日本では10年近く人口の減少が続いていますから、そこに少しでも歯止めをかける為にも、子育てを支援する施策は国の最重要課題と言っても過言ではないでしょう。

急速に進む少子化と、子どもを抱える世帯で必ずしも母親が家で小さい子どもの世話を出来るのが当たり前ではなくなったなどという環境の変化に対応する為に、2012年に成立し2015年4月より施行されたのが、子ども・子育て支援法という法律です。

この法律は、「より子どもを生み、育てやすく」という理念のもとに、小学校に入学するまでの幼い子どもを、働きながらでも、育てやすい環境を作っていく為に制定され、2019年5月現在まで、段階的に、幼児教育・保育についての環境改善が実施されてきています。

法律が展開していく三本柱のポイントとしては、以下の3つが挙げられます。
① 認定こども園・幼稚園・保育所などを通じた給付
② 認定こども園制度の改善
③ 地域の実情に応じた子ども・子育て支援

この3つの中の上記①が具体的な形として現れたのが、2019年5月10日に「子ども・子育て支援法律改正法」であり、2019年10月から実施される「幼児教育・保育無償化」です。

これにより、3歳から5歳の子どもについて、幼稚園、認可保育所、認定こども園、企業主導型保育所などの利用料が、世帯の収入の額に関わらず、一律に無償化されます。

認可保育所に入所できない待機児童の問題は、まだまだ継続していますから、これに関しての処置もあり、保育の必要性が認められれば、月額3万7千円を限度に支給されます。

また、0歳から2歳の子どもの保育料の無償化ついては、世帯の所得の制限があります。
住民税が非課税の世帯に限り、認可保育所、認定こども園などの利用料が無償化されます。

もちろん、この場合にも、認可施設に入所できない事も多々ありますから、認可外保育施設に子どもを預ける場合には、月額4万2千円を限度に無償化される事になります。

2019年10月の同時期に始まる消費税引き上げとの相互関連

2019年10月から、このように本格的な幼児教育・保育の無償化が始まるわけですが、この時期は、まさに、消費税が現在の8パーセントから10パーセントに引き上げされる時期です。

消費税引き上げにより生じる増収分は、5.6兆円と言われていますが、その中の半分である2.8兆円は将来世代の負担軽減、つまり今、日本が抱える赤字を抑制する為に使われます。

そして残りの半分の2.8兆円は少子化対策(幼児・高等教育の無償化や保育士の増員など)に1.7兆円、社会保障の充実(低所得の高齢者を支援など)に1.1兆円使われる事になっています。

消費税が引き上げられると、毎日の生活費が圧迫されるわけですが、それと引き替えに少子化対策も促進されるという事になるわけです。

消費税とは、毎日の生活費にほぼかけられる税金ですから、生活費と大きく密着しています。
もちろん、消費税の対象とならないものに、住宅家賃や、医療費、保険料、切手、はがき・土地などはありますが、生活をしていく上での日常的な買い物に、自動的に課されるのが消費税となります。

いつの間にか払わされる事になっているのが消費税というのが一般生活者の感覚ではないでしょうか?

そこで、自然に湧いてくる疑問があります。
消費税が上がった場合の支出の増加によって、子どものいる世帯では幼児教育・保育無償化が帳消しになったりしない?

世帯の年収別に消費税が8パーセントから10パーセントに引き上がった場合に、どの程度の増えるのかを調査した計算結果を調べてみました。

<消費税10%になった時の負担増額>
年収200万円未満・・・約2万円
年収200万円台・・・約3万円
年収300万円台・・・約3.6万円
年収400万円台・・・約4万円
年収500万円台・・・約4.4万円
年収600万円台・・・約4.9万円
年収700万円台・・・約5.3万円
年収800万円台・・・約6万円
年収900万円台・・・約6.3万円

こうして数値を見ると、年収が低い世帯ほど、消費税増税の影響を受ける割合が大きい事に気づきますね。

そして、消費税が10%に引き上げられる2019年10月から実施される幼児教育・保育の無償化ですが、今までは実際にどの程度の費用がかかってきたのでしょうか?

厚生労働省の「平成27年 地域児童福祉事業等調査結果の概況」による調査では、一世帯別月額保育料金平均金額は21,138円となっています。

この平均月額21,138円を年間費用に換算すると、253,656円ですから、上記の消費税10パーセントになった時の負担増額よりはるかに上回っています。

問題点その1 幼稚園の無償化は必要?

ここまでの内容を見ると、消費税増税の使い途も正しく、子どもを育てやすくなる社会へ前進しているかのように見えます。

しかしながら、現実はそのように行っていないようです。

今回の幼児教育・無償化の内容について、最も目を引くのが、次の内容です。
3歳から5歳までの子どもについては、幼稚園、認可保育所、認定こども園、企業主導型保育所などの利用料が、世帯の所得にかかわらず一律に無償化ということです。

え?幼稚園も無償化なの?と考える人も多いかもしれません。

現在、日本の幼稚園は以下の4つの種類に分けられます。

1.子ども・子育て支援制度に移行している幼稚園
2.子ども・子育て支援制度に移行していない私立幼稚園(私学助成)
3.国立幼稚園(国立大附属)
4.国立幼稚園(国立特別支援学校幼稚部)

今回の幼児教育・保育無償化に完全に該当するのが、上記1の子ども・子育て支援制度に移行した幼稚園に通う子どもの世帯となります。

しかし、1の幼稚園ばかりではなく、2に該当する一般的な私立幼稚園では、月額2.57万円を上限として無償化されます。
3については0.87万円、4については0.04万円を限度に無償化されます。

実は、この1に該当する幼稚園では、すでに、子ども・子育て支援制度が導入されてから、市町村ごとに定める所得に応じた保育料を払うことになっています。
つまり、今回の無償化によって恩恵を受ける事ができるのは所得の高い世帯となるのです。

上記3と4については、あまり大きな割合を占めないと思われますが、一般的な私立幼稚園に該当するのが、2の子ども・子育て支援制度に移行していない私学助成の私立幼稚園です。

今回の幼児教育・保育無償化に伴い、前述のように月額2.57万円まで無償化されるのですが、これは本当に必要な無償化と言えるのでしょうか?

幼稚園とは、一日の保育・教育時間が4時間と短時間であり、夏休みや、春休みなどの長期休業もあります。
家庭によってもちろん事情は異なるでしょうが、子どもを幼稚園に通わせているなら、専業主婦・専業主夫が、その4時間以外の時間や、長期休業の時に子どもの世話ができる家庭である場合が多いと考えられます。

消費税増税による財源で、幼稚園を無償化する事、すなわち幼児教育の無償化が、働きながらでも子どもを生み育てやすい社会にすることに結びつくのかというのは、大きな疑問として残ります。

問題点その2 本当に保育の無償化なのか?

今回の幼児教育・保育無償化では、繰り返しになりますが、3歳から5歳までの子どもについては、幼稚園、認可保育所、認定こども園、企業主導型保育所などの利用料が、世帯の所得にかかわらず一律に無償化となります。

問題点その1では幼児教育無償化について触れましたが、やはり、働きながら子どもを育てるためには、なくてはならないのが、子どもを8-11時間という長時間預けることのできる、認可保育所、認定こども園です。

幼児教育・保育無償化により、認可保育所や、認定こども園に通う3歳から5歳の子どもについては、世帯の所得にかかわらず一律に無償化となるわけですが、これが、本当に今必要な改革となるのでしょうか?

日本ではすでに、保育が必要な子どもたちが通う認可保育所や認定こども園の費用は、世帯収入によって段階的に定められる「応能負担」となっており、低所得の世帯は、現状、実質的に無償化されています。

すなわち、今回の保育料の一律無償化が、どこまで働きながら子どもを育てている世帯にとって負担を軽くする事ができるのかが大きな疑問となってくるのです。

一律の無償化の前に、すでに世帯収入により、無償化されていたり、軽減された保育料となっている認可保育所や認定こども園の利用料・・・。
一律無償化という響の裏に、納得のいかない税金の使い途が潜んでいるようです。

問題点その3 無償化には給食費が含まれない

今回の幼児教育・保育の無償化の対象となるのは、施設の利用料であり、無償化の対象にならない、子どもの施設通いに欠かせない費用は多くあります。
その中でも代表的なものが給食費です。

幼児教育・保育の無償化が実施される代わりに、給食費は親の負担となる事が決定されています。

幼稚園、保育所、こども園などの、給食費は、主食費と副食費とで構成されています。
主食費とは、ご飯やパンなどの主食の費用で、副食費とは、おかずの費用となっています。

幼稚園では、もともと主食・副食ともに実費を親負担でしたので、無償化後も変わりはありません。

3歳から5歳の子どもについては、主食は親負担でしたから、これも無償化後の変化はないのですが、問題はおかずの副食費です。
(一部自治体によっては、自治体の補助により主食が無料化している場合もあります。)

副食費は、今までは保育料に含まれていたため、実費としてはかかりませんでした。
しかし、無償化後は、この副食費が実費として親の負担になるのです。

内閣府によると、子ども一人当たりの月額の給食費は、主食で3000円、副食で4500円となっていますから、副食費が増えるとすると、負担は大きいものです。

この副食費には、副食費免除対象世帯があります。
幼児教育・保育無償化になったとしても、副食費の実費がかかるという事で、低所得世帯のイジメではないかという批判が多く上がったようですが、副食費に関しては、生活保護世帯、ひとり親世帯、低所得世帯(年収360万円未満相当)の世帯では副食費免除となります。
この副食費免除の枠は、今回の幼児教育・保育無償化にあたり、拡充されました。

副食費免除の世帯があり、その枠が拡充されたという事で、少しだけ安心にはなりますが、年収によっては、一律の無償化と引き換えに、副食費を払うことによって出費が増える世帯が出てくる可能性も考えられます。

そのようなことになれば、幼児教育・保育無償化の意味は全く、主旨からずれていきます。

一律無償化という事が大きく取り沙汰されていますが、本当に給食費実費負担によって問題が起こらないのかどうかという試算などが出てこないのは大きな問題です。

ちなみに、0-2歳の子どもについては、幼児教育・保育無償化後、住民税非課税世帯の場合には、保育料は無償であり、給食費についても主食費、副食費共に無償です。

しかしながら、この無償化も、今更ながらスポットを浴びるべき内容ではなく、従来の内容が継続しているだけです。

最近では、認可保育所でも英語教室などの時間がある保育園も出てきています。
そういった特別な教室には別途実費がかかり、たとえ月2千円でも実費を負担しなくてはいけません。
収入が低い世帯であっても、子どもに不平等感を与えないようにするためには、その費用を出さないわけにはいかないというのが親心ではないでしょうか?

制服代、絵本代、遠足費など、利用料に含まれない実費清算の費用は、月額5千円程度になる保育園も少なくなく、それと同時に、このような実費負担費用は、子どもに不平等感を与えないためには必要不可欠な出費であることは間違いありません。

施設利用料以外にかかるすべての実費をを無償化する事は無理かもしれませんが、根本的な仕組みを見直していく必要が迫られているのではないでしょうか?

問題点その4 認可外保育施設無償化は根本的に待機児童問題解決になる?

今回の幼児教育・保育無償化の範囲は、認可外保育施設までカバーします。
3-5歳の子どもが、保育の必要性の認定を受けた場合、認可保育所における保育料の全国平均額(月額3.7万円)までの利用料が無償化となります。

0-2歳の子どもの場合、保育の必要性があると認定された住民税非課税世帯の子供たちを対象として、月額4.2万円までの利用料を無償化されます。

つまり、認可外保育施設だとしても、子どもが保育の必要性があると認定された場合には、認可施設と同レベルの無償化がなされるのです。

無償化が受けられるためには、認可外保育施設が、都道府県等に届出を行い、国が定める認可外保育施設の基準を満たすことが必要とされています。

しかし、これには、経過措置として5年間の猶予期間を設定されているのです。

この5年間の猶予期間の設定というのが、大きな不安要素になります。

もともと、認可保育所や、認定こども園に入所するのは簡単なことではありません。
入所したい子どもの数に対応できる認可保育施設、そして人員が足りていないことから、待機児童という問題が大きくなっています。

そのような待機児童対策に、一見有効に見えるこの認可外保育施設の無償化ですが、子どもの安全の確保については、大きな疑問が湧いてきます。
5年間の猶予期期間の間に、保育士の人材確保や、認可外保育所の監督強化、環境整備がどこまで具体的になされていくのでしょうか?

問題点その5 無償化の時期はいつ?

幼児教育・保育無償化は、2019年10月1日から実施されると決定されました。
でも、この無償化がすべての子どもたちに一斉に適用されるのが、2019年10月1日というわけではありません。

幼稚園(4時間程度)については満3歳(3歳になった日)から無償化が開始され、保育所については3歳児クラス(3歳になった後の最初の4月以降)から無償化されるという事になっています。

つまり、認可保育所、認定こども園では、2019年10月1日に3歳になったとしても、2020年の4月になるまでは、無償化されないということになります。

これは、保育の必要性の認定という課程を経なくてはいけないからとも考えられますが、比較的に子育てをしやすい経済的余裕がある子どもが通っていると考えられる幼稚園の場合には、3歳になった段階で無償化が開始されるのに対し、保育所に通う子どもの無償化については時期的な不均衡があります。

働きながらでも子どもを生み、育てやすい社会を形成するために、本当に補助していかなくてはならないのは、長時間子どもを預かってくれる保育施設に通う子どものいる世帯であるはずです。

2019年10月に実施される消費税10パーセントへの引きあげの影響を鑑みて、本来ならば、2020年4月開始を目標にしてきた幼児教育・保育無償化を2019年10月実施に前倒ししたという政府側の論理が、ここでも疑問視されてきます。

現在、日本のみならず、先進国においては、出生率の低下を止め、人口減少を食い止め、子どもを産んで育てやすい社会にしていくための取り組みが多数行われています。

幼児教育・保育の無償化実施に関しては、日本はかなり遅れをとっていたので、今回の2019年10月実施というのは、少子化対策の具体化への第一歩とも言えるかもしれません。

しかしながら、上記のような大きな問題点を抱えるこの無償化・・・。

幼児教育・保育の一律無償化とは一体何なのか?
幼稚園の管轄官庁は文部科学省で、保育園の管轄官庁は厚生労働省という、異なる官庁が、この小学校入学前の子どもの教育・保育を司っているという事からの不均衡も多く見受けられます。



少子化対策への具体的な大きな一歩となるべく、現在抱えているこの5つの大きな問題点を、より具体的に解決していく施策が望まれます。

参考資料:
幼児教育の無償化について 平成31年2月14日 内閣府・文部科学省・厚生労働省
幼児教育・保育の無償化に関する住民向け説明資料(内閣府作成)練馬区ホームページより

 

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