2018年11月23日、平成最後の新嘗祭が執り行われました。
特に、来年2019年は、今上天皇が生前退位する事となり、皇位継承の儀式・行事がいくつも予定されています。
また、新元号が2019年4月1日に正式発表されることになり、いよいよ新しい時代の幕開けが近づいてきました。
2019年に予定されているいくつもの皇位継承の儀式の最終締めくくりとなるのが、大嘗祭、つまり「即位した天皇が、即位後初めて五穀豊穣を神に感謝する新嘗祭(にいなめさい)」となり、2019年11月14日と15日に行われます。
この大嘗祭(だいじょうさい)は宗教色が強いとされ、「剣璽等承継の儀」や「即位礼正殿の儀」と異なり、国事行為としてではなく執り行われます。
それでは、一体、大嘗祭とはどういうものなのか、新嘗祭とはどのように異なるかを調べてみました。
新嘗祭とはどういうもの?
2018年11月23日、国民の祝日、勤労感謝の日に、皇居では、天皇陛下在位中最後となる平成最後の新嘗祭が執り行われました。
来年2019年に今上天皇が生前退位なさり、皇太子殿下が新しい天皇に即位されることが決定されているため、この毎年行われている新嘗祭も、今年は特に注目された形で報道されました。
新嘗祭とは、そもそも農業国であった日本において最も重要とされる宮中祭祀(きゅうちゅうさいし)です。
宮中祭祀とは、天皇陛下が宮中三殿(賢所・皇霊殿・神殿)で国家と国民の繁栄を祈るために行われる祭祀であり、天皇が自ら祭典を斎行し、御告文を奏上する大祭と、掌典長(掌典職)らが祭典を行い、天皇が拝礼する小祭があり、年間約20の祭儀があります。
新嘗祭は、この大祭にあたります。
日本はもともとは農業国でしたから、秋になると収穫祭として、地元の神社などでも、数々の祭りが開催されていますよね。
新嘗祭も、五穀豊穣を祝う収穫祭であり、「新」は新穀を意味し、「嘗」はご馳走を意味します。
天皇陛下が、天神地祇(てんじんちぎ)に勧め、天皇陛下自らも召しあがり、その年の収穫に感謝する宮中祭祀で、皇居内、宮中三殿の近くにある神嘉殿にて執り行われます。
日本神話に登場する神様の事で、天の神様たちが天津神(あまつかみ)、地の神様たちが国津神(くにつかみ)と称されます。
この「津」という文字が、現代語の「の」に相当し、天津神で天の神様、国津神で国の神様ということになります。
漢字二字でこの二つの言葉を表記すると、「天神」と「地祇」となります。
つまり、新嘗祭では、天皇陛下は、その年の収穫を祝うために、天津神、国津神に新穀を献上し、その後、ご自身も召し上がるのです。
五穀の収穫は、一年間、国全体を養う大変重要な蓄えになりますから、古来から大事な儀式とされており、その起源は遠く神話時代にさかのぼるようですが、日本書紀の文献上では、飛鳥時代の第35代皇極天皇(在位642年から645年)の時代、642年11月16日の新嘗祭が最初とされています。
万葉集にも幾つもの新嘗祭についての和歌が詠まれています。
その和歌の中では、当時は、民間でも新嘗祭の儀式を行っていたということが記されています。
今でこそ、宮中祭祀であり、また、伊勢神宮などを代表する様々な神社でも執り行われる新嘗祭ですが、日本全体が農業国であった時代は、収穫祭としてすべての日本国民にとって大切な儀式だったのです。
宮中祭祀としての新嘗祭は、一時期中断されていましたが、江戸時代の第113代東山天皇(在位1687年51709年)の時代に復活しました。
元々は、旧暦11月の二の卯の日に執り行われてきました。
卯の日が11月に二回しかない場合には、二回目、三回ある場合も二回目の卯の日に執り行われ、旧暦では11月13日から24日の間にあたる日となっていました。
現在、天皇陛下が皇居内の水田で、陛下自ら稲を育てていらしゃっており、宮中祭祀としての新嘗祭では、全国から献納された新米と共に、その皇居内の水田で収穫した新米もお供えなさっているそうです。
勿論、お米が最も大切なのですが、お供え物としては、お米からできているお酒、お米からできている御餅などが並びます。
最も重要な宮中祭祀である新嘗祭でしたが、その内容はベールに包まれていましたが、2013年の新嘗祭の様子は、今上天皇が80歳のお誕生日をお迎えになったことを記念し(傘寿)、その儀式の様子が宮内庁の映像によって公開されました。
新嘗祭は、一日に二回、二時間ずつの儀式があり、なかなか体力的に負担の強いられる儀式とされています。
午後6時からの「夕(よい)の儀」、そして午後11時からの「暁(あかつき)の儀」があり、それぞれ二時間に及ぶ儀式です。
このように、長時間に及ぶ儀式であるため、宮内庁は天皇陛下の負担軽減のため、2009年から暁の儀への出席時間を短縮しました。
2012年からは夕の儀も同様に短くし、陛下が80歳となった2014年からは暁の儀への出席を取りやめました。
昭和天皇が暁の儀の出席を取りやめたのが69歳の時だったそうですから、現在の天皇陛下がいかに献身的に行事をこなしてこられたかというのが分かります。
新嘗祭の日と勤労感謝の日の関係
新嘗祭は、前述のように、もともとは、旧暦の11月の二の卯の日に執り行われてきました。
が、明治維新を迎え、太陽暦採用になった年、、1873年(明治6年)にその年の旧暦11月の二の卯の日が11月23日であったため、新嘗祭の日がその時から11月23日と定められ、それと同時に「新嘗祭」という名前の国民の祝日として定められ、新嘗祭という祝日は1873年から第二次世界大戦後の1947年まで続きました。
1947年というのは、日本国憲法制定の年です。
1947年5月3日に日本国憲法が制定されました。
1945年の太平洋戦争終結から、アメリカによる日本の占領統治が始まりましたが、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)は、占領開始から半年もしないうちに、日本において天皇制がいかに根強いものかという事を悟りました。
そのため、天皇制を廃止するのではなく、天皇制を存続しつつも、天皇の覇権を完全に取り去り、象徴天皇の名前を憲法に残すべく、大日本帝国憲法を改正し、日本国憲法を制定したのです。
このように、天皇制の日本における影響力の大きさに、恐れを抱いていたGHQは、この新嘗祭という祝日についても、国家神道と強く結びついているとし、危険視しました。
そのため、1948年の11月23日からは、この祝日の名前は、「新嘗祭」ではなく「勤労感謝の日」と変更されたのです。
ほぼ日本の勤労感謝の日に近い時期に、アメリカには、サンクスギビングデー(Thanksgiving Day)という祝日があります。
このサンクスギビングデーも、ルーツとしては、収穫祭が始まりであり、昔は宗教色の強い行事でもあったようです。
収穫の時期が秋という事で、新嘗祭とも、ある意味共通点はありますが、国も、文化も、当時の宗教も大きく異なっているので全く異なる行事です。
サンクスギビングデーという名前の通り、感謝際であり、日本の「勤労感謝の日」という名称にも「感謝」という文字が入っています。
これは、当時の占領軍が、米国の Labor day とThanksgiving Dayを合わせた Labor Thanksgiving Day (レイバーサンクスギビングデー)という名前を、新嘗祭に代わる新しい祝日の名前として提案し、その日本語訳として「勤労感謝の日」になりました。
2018年となった現在、11月23日が新嘗祭という名前の祝日だった事を知っている日本人も皆高齢者になっています。
ですから、11月23日が勤労感謝の日ということは知っていても、実は以前は、その祝日の名前が新嘗祭だったという事を知っている人は、それほど多くいないかもしれません。
以前、新嘗祭であった勤労感謝の日は、祝日として、長い歴史を持ち、その位置付けも重要視されています。
そのため、ハッピーマンデー制度が平成10年(1988年)に導入されてからも、月曜に「勤労感謝の日」が動かないのもその大きな理由の一つです。
改めて、新嘗祭から勤労感謝の日という名前の変遷を紐解くと、日本という国が、太平洋戦争を経て、大きな変化を迫られてきたのだという事が伝わってきます。
大嘗祭とはどのような行事?
来年2019年は、今上天皇(明仁天皇)が生前退位なされ、皇太子殿下が新しい天皇として即位なさります。
昭和天皇御崩御の時とは異なり、生前退位ですので、この新天皇即位に関わる皇位継承の儀式は、すでに日程も設定されています。
皇位継承には大きく分けて3つのステージがあります。
まず最初の第1ステージが、新天皇が即位する2019年5月1日に行われる「皇位の証である三種の神器を受け継ぐ儀式」つまり、剣璽等承継の儀です。
続く第2ステージが「即位した事を内外に示す即位式」、10月22日に行われる即位礼正殿の儀となり、そして第3ステージが「即位した天皇が、即位後初めて五穀豊穣を神に感謝する新嘗祭(にいなめさい)」、11月14日と15日に行われる大嘗祭(だいじょうさい)となります。
つまり、毎年行われている新嘗祭ですが、大嘗祭は即位した新天皇が即位後最初に執り行う新嘗祭となります。
即位式が7月以前ならば年内に,8月以降ならば翌年に行うことが,平安時代に定められたそうで、2019年の即位は、5月1日になりますから、2019年11月14日、15日と決定されました。
即位後最初の新嘗祭が、大嘗祭ということになりますから、天皇陛下にとっては、一生に一度の儀式となります。
新嘗祭と大嘗祭との大きな違いは、新嘗祭は、宮中三殿のそばにある神嘉殿でとりおこなれるのですが、平成天皇即位後の大嘗祭については、大嘗祭を行う大嘗宮を皇居・東御苑に設営して行うということです。
毎年、執り行われている新嘗祭も、前述のように殆ど国民が知ることのない状態で実施されてきましたが、大嘗祭は更に、その内容はベールに包まれています。
2019年の大嘗祭は11月14日、15日に予定されていますが、これは、厳密に言うと、11月14日夜から11月15日未明にかけて行われるという事になります。
平成の大嘗祭は平成2年(1990年)の11月22日夜から23日未明にかけて行われました。
実は、この大嘗祭は、当日、つまり2019年の場合には、11月14日、15日だけで完結するものではなく、数ヶ月前から、数々の段階を経て準備がされていきます。
まず民間人が知りうることの出来ない儀式ですから古来からの方法が現在まで、どこまで踏襲されているかは明確に確認する事は出来ませんが、日本の各地にお祓いを行う大祓師(おおはらえし)を派遣して御祓いを行ったり、お供えするための新穀の稲穂を抜くための人材を派遣します。
そこで抜かれた穂で、お供えするご飯、お酒などが作られます。
また、大嘗祭が行われる大嘗宮は、大嘗祭本祭の7日前から造り始められます。
地鎮祭の後に、造り始められ、5日以内に工事は終了し、その後は宮殿に災害のないように祈る大殿祭と邪神を払うための御門祭が執り行われます。
大嘗宮は悠紀殿・主基殿の2殿から成ります。
新嘗祭と大嘗祭との最も大きな違いは、大嘗祭は新たに建築された大嘗祭宮で行われる事にあります。
大嘗宮である、悠紀殿・主基殿の中には、それぞれ、天皇の席と神様の席がしつらえられており、そこで共に向き合うような形で、新穀を食べる(共食する)そうです。
この儀式は、悠紀殿・主基殿の二つの殿で行われます。
大嘗祭をめぐる政教分離に反するという論議
平成2年11月22日から23日にかけて執り行われた大嘗祭は、報道関係者なども完全にシャットアウトされた中で、悠紀殿・主基殿の2つの殿の中で、合計8時間に渡って執り行われました。
大嘗祭は、新たな天皇が皇祖神とされる天照大神(アマテラスオオミカミ)らに穀物をお供えし、新天皇自らも口にすることで豊穣と国民の安寧を祈る儀式と説明されています。
これは、毎年行われている新嘗祭と主旨はまったく同じ事になります。
大嘗宮である、悠紀殿・主基殿の中には、それぞれ、天皇の席と神様の席がしつらえられており、そこで対座して新穀を共食するわけですが、その席の他に、八重畳(やえだたみ)の寝座、つまり、寝床と寝具がしつらえられているとされています。
このような大嘗宮の内部のしつらえの特色や、儀式の内容が全く明らかにされないため、大嘗祭では秘儀が行われているという説が多く存在しています。
そのため、平成の大嘗祭を巡り、海外メディアが、秘儀をめぐる報道を繰り広げたため、当時の日本国政府が憂慮し、宮内庁側が、大嘗祭の前に会見を行い、「大嘗祭には、特別な秘儀はなく、特別な御告文にもそのような思想はない」と否定しました。
しかしながら、平成の大嘗祭も、大正天皇、昭和天皇の大嘗祭の時と同じように全く秘密裏に実施されました。
当日の取材に臨んだ記者の談によると、何もみえず、何も聞こえずに数時間の間過ごしたそうです。
今年2019年11月30日に、53歳のお誕生日を迎えられた秋篠宮様が、お誕生日の日の会見で、この大嘗祭について踏み込んだご発言をなさりました。
この、宗教色が濃いとされている大嘗祭について、国費で執り行うという事にはすっきりした感情を抱いていないと仰ったのです。
大嘗祭は、毎年、宮中三殿のそばに位置する神嘉殿で行われる新嘗祭とは異なり、大嘗宮を皇居・東御苑に新設し、その中で執り行われます。
大嘗宮とは、大嘗祭当日の7日前から建設し、5日以内に竣工するというものですが、この建築費用は平成天皇の大嘗祭の時には、14億5000万円あまりかかり、費用は総額で約22億5000万円に上りました。
平成の大嘗祭を公費で取り行った事に対し、政教分離の日本国憲法第20条の原則に反するということで、憲法違反の訴訟も数多く起こされました。
いずれも原告側の主張は退けれられましたが、1995年の大阪高裁判決では、「憲法違反の疑いは一概に否定できない」との指摘もなされました。
昭和から平成に代替わりの際には、莫大な費用のかかる皇位継承の儀式の数々に、公費を費やす事に対して、各地で反対運動が起こり、批判する報道も相次ぎました。
しかしながら、2019年に実施される今上天皇の退位、そして皇太子殿下が新しい天皇に即位するにあたっての皇位継承の一連の儀式に公費が費やされる事に関しての批判などは殆ど聞こえてきません。
30年前にはマスコミなどを含む国民側からアンチテーゼを唱えた大嘗祭でしたが、2018年の現在では、皇室側からアンチテーゼを唱えられた大嘗祭となっています。
この流れがどのような形で動いていくのかは分かりませんが、21世紀の現代社会において、日本の伝統、ルーツなどをまた見つめ直す機会が来ているのかもしれません。
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