ストリートアートの生きた伝説と言われている英国の覆面アーティスト、バンクシー(Banksy)の代表作「少女と風船(Girl with Ballon)」が、2018年10月5日、ロンドンのサザビーズによるオークションで、バンクシーの作品の過去最高の落札額と並ぶ、104万2000ポンド(約1億5500万円)で落札された直後、自動的に中に隠されたシュレッダーが起動してズタズタに裁断されてしまいました。
衝撃が走る中、バンクシー本人が自身のインスタグラムで、オークションで高値で売られる事に備えて自らシュレッダーを内蔵させていた事を明かしました。
そして、2019年になって、日本では千葉県の九十九里浜の堤防でこの「少女と風船」のバンクシーかもしれない絵が見つかり、話題となっています。
このバンクシーとは一体どういうアーティストなのか?そして切り裂かれた絵とは?
目次 Contents
覆面アーティスト・バンクシー
バンクシーは英国ロンドンを中心に活動する覆面アーティストであり、本人は自身のプロフィールを明かしていません。
反戦、反権力、反資本主義の思想のもとに、世界中の建物にゲリラ的に社会風刺グラフィティ(落書き)アートを描くことで知られています。
今回、オークション直後に自滅した「赤い風船に手を伸ばす少女」は、ロンドンのGreat eastern street(グレートイースタンストリート)にあるプリントショップの外壁に描かれたのが最初でした。
また、同じ2002年に、ロンドンのSouth bank(サウスバンク)という地域の壁にも描かれました。
今回落札された絵は2006年に、現所有者がバンクシーから購入したものだそうです。
この「赤い風船に手を伸ばす少女」の絵がより世界的に有名になったのは、2014年、シリアの内戦が三年を迎えた時に、この「赤い風船」の絵をモチーフにした反戦キャンペーンが世界で広まったからでした。
バンクシーは、この反戦キャンペーンのために、新たに少女を「シリアの少女」をイメージして作品を描き直しました。
サッカー選手のクリスチャン・ロナウド選手など、世界一流セレブもこのキャンペーンに参加し、より世界中に広がっていったのです。
I stand #withSyria. Innocent children need our help. Learn more about @SavetheChildren here http://t.co/kU3uuddXIr pic.twitter.com/SnU5i92Dhm
— Cristiano Ronaldo (@Cristiano) 2014年3月12日
落札直後の衝撃の自滅シュレッダー
バンクシーの描いた「赤い風船に手を伸ばす少女」が2018年10月5日、サザビーズが主催するオークションで競売にかけられ、見事に104万2000ポンド(約1億5500万円)で落札され、人々の視線が一斉に絵に集まった途端、その自滅シュレッダーが作動し、絵が切り裂かれていったのです。
そして英国の現地時間、10月6日夜に、バンクシーは、自身のInstagramで、実は、オークションで売られてしまうことに備えて、数年前に自らシュレッダーを絵の中に仕込んだことを、動画とともに明らかにしました。
このInstagramは、”The urge to destroy is also a creative urge”- Picasso 「破壊するという衝動は、創造的な衝動でもある」というピカソの言葉と共に投稿されました。
サザビーズ(Sotheby’s)のシニアディレクター、Alex Branczik(アレックス・ブランズィック)氏は、”It appears we just got Banksy-ed.”「バンクシーされたようだ。(まんまとバンクシーにやられた)」と話しています。
当たり前のことでしょうが、「アート作品が、その中から出てきたハンマーによって自動的に作品を切り刻むなんて事はオークション史上初めての事だ」と衝撃は隠せないようです。
サザビーズ側は、詳細の取材には一切応じていなく、落札者とは、今後の対応について話し合いをしていると言われています。
シュレッダーが隠されていたとしても、どうして落札の直後に作動を始めたのか、疑問の残るところでしたが、当日、何者かが会場の警備員ともみ合いになっていたという目撃証言もありました。
バンクシー本人か、もしくはその命を受けた何者かが作動スイッチを押しに来ていたのか、興味津々ですが、詳細はまだ明らかにはなっていないようです。
オークションを忌み嫌うバンクシー
バンクシーは、オークションを忌み嫌う事で有名です。
今回のように額縁に入った作品だけでなく、バンクシーによる壁の落書きアートも高値で取引されています。
「赤い風船に手を伸ばす少女」の最初の作品とされている、ロンドンのグレートイースタンストリートにあった壁の落書きアートは、2014年に取り除かれ、展示に出され売却されました。
売却額は推定50万ポンド(約7600万円)とされています。
この「赤い風船」の壁落書きアートだけでなく、バンクシーの落書きアートは数多く売却されています。
壁の落書きアートというものは、元来束の間の命であり、大体において非合法のものです。
多くのストリートアーティストは、いつの日か、その作品が雨風にさらされてなくなっていくか、再度塗られてなくなっていくことを望んでいます。
しかしながら、近年では、このような壁落書きアートへの関心がアート業界の中で大きく高まってきています。
この流れによって、多くの美術館がこぞって展示をしようとしたり、とてつもない売値がついたり、描かれた場所の所有者たちが我先にと売却しようとしたりという現象が起きています。
バンクシー自身は、「全てのストリートアートを元からある場所に存在できるよう、もともと販売のために描かれた作品でない限り、誰からも買わないようにしてもらいたい」と語り、勝手に高値で売買される状況を強く批判しています。
そういったオークションや、そもそもの落書きアートの意味を無視した売却行為そのもの、また、その売買に関わる人たちへの戒めも含めて、シュレッダーを内蔵させ、起動させるという事につながったのかもしれません。
自身の壁落書きアートが、取り除かれ売却されそして展示されている事に、バンクシーは大いに不満のようです。
バンクシーのサイトには、バンクシー展示は、真のもの(REAL)と偽のもの(FAKE)があると写真入りで載せています。
REALに属するものは、当然ですがほぼ、無料で見られる落書きアートであり、FAKEは、アムステルダム、モスクワ、トロントなどの世界各地で開催されている、壁から取り除かれたバンクシー作品を展示する展覧会の数々を挙げています。
バンクシーの正体は?
バンクシーの正体は誰なのかという事は、いまだに明確になっていませんが、イギリス・ブリストル出身の音楽ユニットであるMassive Attack(マッシブアタック)のメンバーであるロバート・デル・ナジャ(Robert Del Naja)氏ではないかという見方が強いようです。
ロバート・デル・ナジャ氏は通称3Dと呼ばれ、ミュージシャンであるばかりでなく、1980年代にはグラフィティ(落書き)アーティストとしても活躍しています。
本人自身もバンクシーとは親しい仲と認めているので、同じ家に住んでいるのではないかなどとも言われています。
また、バンクシーは一人ではなくグループなのではないかという考え方もあるようです。
10年以上の長い期間、世界各国で一人で絵を描き続けることは難しく、グループで描いていると考えるのは自然な発想ではないかと言われています。
2010年ごろから、Massive Attackのツアーに同行したアーティストグループが絵を描いているのではないかという噂があり、そのバンクシーとしての活動のリーダーがロバート・デル・ナジャ氏ではないかという見方があるようです。
ロバート・デル・ナジャ氏本人は、自分がバンクシーであるという事については完全否定していますが、2017年12月、ついにバンクシーの正体が判明したという一報が届きました。
パレスチナのヨルダン川西岸地区ベツレヘムにあるカトリック礼拝堂「ミルク・グロット」周辺で、偶然現地を訪れていたイギリス人観光客が、一人の落書きアーティストが落書きをしているのを写真撮影しました。
そのイギリス人観光客のジェイソン・ステリオスさんは、その写真を撮影した1週間後にバンクシーのオフィシャルサイトを見たところ、自分の撮った写真がバンクシーの作品として掲載されていたのを見て驚愕したのです。
アートは”Peace on Earth Terms and conditions apply”で「地球に平和を 規約と条件付」という国際情勢を皮肉ったものでした。
その写真のグラフィティアーティストが、ロバート・デル・ナジャ氏そのものにしか見えないと大きく話題になったのです。
もう言い逃れできない激写ではないかと話題になりましたが、ロバート・デル・ナジャ氏は認めていなく、いまだにバンクシーは覆面アーティストのままですが・・・。
シュレッダー事件によって値段は更に高騰する?!
破れてしまった絵には価値はなくなってしまうのではないかと思ったのは、単なる素人の浅い考えのようです。
保管のミスで破れたというのと訳が違い、大勢の人の見守る中、しかも動画が残されている以上、ある意味「世紀の瞬間」となったのが、自滅シュレッダーの切り裂きでした。
サザビーズのヨーロッパ会長である Oliver Barker(オリバー・バーカー)氏は、このシュレッダー事件のことを“A brilliant Banksy moment!”.「輝かしいバンクシーの瞬間」と表現したそうです。
最近では、バンクシーのサイン入りの作品は激しく値上がりしており、サイン入りの作品は一般的に115,000ポンド(1700万円)はくだらないとされています。
そのような価格高騰の流れのある中で起きた今回のシュレッダー事件は、世界的に多くの注目を集めた為、オークションの落札者は、104万2000ポンド(約1億5500万円)を遥かに凌ぐ利益を得られるだろうと言われているのです。
その額は、恐らく50%以上値上がり、200万ポンド(約2億9800万円)にまで届くのではないかと!
何とも、その額には目を見張るばかりですが、バンクシー本人の意向とは逆行して、戒めのつもりだったかもしれないシュレッダー事件が、作品そのものの価値を更に高めてしまったようです。
破れてしまった「赤い風船に手を伸ばす少女」の今後の展開に注目したいです。
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